請負契約で取得した固定資産の事業供用日に注意!判断を誤りやすい事例を紹介します。
こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です!
先日、減価償却の事例について紹介いたしましたが、今日も減価償却に関連して、固定資産の事業供用日に関する事例を紹介したいと思います。
目次
事業供用日とは?
事業供用日の説明の前に減価償却資産に関する法律の条文を見てみたいと思います。まずは法人税法から
建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。
法人税法第2条23項(減価償却資産の定義)
次に法人税法施行令。
法第二条第二十三号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
法人税法施行令13条
この2つの条文の関係ですが、まず、前者の法人税法の条文を見てもらうと、減価償却資産の定義を「建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきもの」としつつ、その詳細については政令に委任するという形になっているのが分かります。後者の法人税法施行令13条は、前者の委任を受けた条文であり、より詳細な定義を定めています。つまり、前者が親、後者が子というイメージで理解してもらえればいいかと思います。
ここで注目してもらいたいのがカッコ書きにて「事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。」とされている点です。この2つのうち、後者の「時の経過によりその価値の減少しないもの」の代表例としては、美術品が分かりやすいかと思います。以前、CoCo壱番屋の創業者の方の資産管理会社に税務調査が入り、その会社で所有していた楽器「ストラディバリウス」について計上していた減価償却費が認められず、追徴課税を受けたことがニュースになっていましたが、このような時の経過によりその価値の減少しないものは減価償却資産から外れることになります。そもそも減価償却という考え方が、時間の経過や使用によってその資産の価値が減少するということ前提としているので、時間の経過によりむしろ価値が増加する美術品が減価償却という考え方に馴染まないは当然ですね。
今日お話する事業供用日は、減価償却資産から除かられるものとして挙げられた2つのうち、前者の「事業の用に供していないもの」に関係するものです。
「事業の用に供していないもの」が減価償却資産から除外される理由
なぜ「事業の用に供していないもの」は減価償却資産から除外されるのでしょうか?先日のコラムでも説明しましたが、減価償却は適正な期間損益計算のために行われます。土木工事業を営む会社を例に考えると、500万円でショベルカーを購入し、複数の事業年度の渡って工事に利用したとして、ショベルカーを購入した事業年度に購入価額の500万円を一括して経費計上すると、その事業年度だけ大幅に経費が計上されることになります。そして、二年目以降は、ショベルカーを利用して土木工事を行い売上が計上されているのにも関わらず、その売上を立てるのに役立っているはずのショベルカーに関する経費は計上されないので、二年目以降の事業年度については過大に利益が計上されることになり、本当に会社が儲かっているのかどうかが分からなくなってしまいます。そこで、減価償却を行うことで複数の事業年度に渡って経費を計上し、期間損益計算を行うことで正しい利益額を計算する必要が出てくるわけです。では逆に、事業に利用していないショベルカーがあり、そのショベルカーについて減価償却を行って経費計上した場合はどうでしょうか?事業に利用していないということは、要するにその会社の売上に貢献していないということですから、この場合は、先の例とは違う形で期間損益計算を行うことができなくなります。
つまり、「事業の用に供していないもの」は、売上に貢献していない固定資産であるため、減価償却を行うと適正な期間損益計算ができないことから減価償却資産から除外するということなります。
これらの規定を前提として法人税法第31条1項では減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法について次のように規定しています。
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第22条第3項(各事業年度の所得の金額の計算の通則)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかった場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
この条文で重要なのは、経費として計上できる減価償却費は、内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産の償却費であるという点です。事業年度終了の時とは要するに事業年度の末日のことです。3月31日が決算日ならその時点で有している減価償却資産について減価償却費の計上が認められるということになります。
実務上の注意点
実務上、事業供用日が問題となりやすいのは、減価償却資産を決算月(上記の例でいれば3月)に購入した場合です。例えば、3月決算の会社が、3月に600万円の固定資産を購入した場合、耐用年数を5年とすると年間120万円を減価償却することになります。実際には減価償却は月割で行われるので、購入日=事業供用日とすると、計上される経費は10万円となります。
上記の例で「購入日=事業供用日とすると」と仮定しました。「購入日=事業供用日だろ?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には少し複雑です。国税庁の「タックスアンサーNo.5400-2」では、事業供用日について「資産を事業の用に供したか否かは、業種・業態・その資産の構成および使用の状況を総合的に勘案して判断する」と述べた上で、事業供用日を「一般的にはその減価償却資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日」と定義し、機械の事業供用日は機械の工場への搬入日ではなく、機械を据付け、試運転を完了し、製品等の生産を開始した日と解説されています。
つまり「購入日=事業供用日」とは限らないということになります。では、先に上げた例で、事業供用日が決算月の3月ではなく翌月の4月であると指摘されるとどうなるでしょうか?事業供用日が4月であるとされると、前月の3月時点では事業の用に供していないことになりますので、減価償却資産の定義からは除外され、経費計上した減価償却費10万円について過大に経費を計上したということになってしまいます。減価償却資産の事業供用日はこのような問題が生じやすいので、税理士事務所としては決算月やその近くで購入された固定資産については、必ず事業供用日を顧問先に聞きます。
今回紹介する事例
前置きが長くなりましたが、ここから今日の本題となります。先ほどの例では購入した機械について製品等の生産を開始した日が事業供用日であると述べられていましたが、実は、決算月である3月において、実際に製品の製造に利用されていたにも関わらず、その機械の事業供用日は翌事業年度の5月であると判断された事例があります。(東京地方裁判所平成30年3月6日判決)
概要の紹介
まず事例について時系列に沿って概要をお話します。
納税者である3月決算法人のX社はお菓子の製造を行っている会社です。自社の工場に機械装置(製品格納自動倉庫システム)を設置するため、平成24年6月18日にY社との間で業務請負基本契約が締結しました。機械装置の製造等を行うY社との間で締結された業務請負基本契約には次の契約条項が記載されていました。
・X社は納入された機械装置に対して、X社とY社との間ですべての機能が問題なく動作するか確認し、その確認、検証後にX社が検収書に押印して検収とする。
・X社は機械装置の検収後、Y社の請求により翌々月10日にY社へ代金を支払う。
そして、上記の業務請負基本契約を一部修正するため同日に下記の内容で覚書がX社とY社との間で取り交わされました。
・「検収とする。」を「検収とする。検収時に機械装置の引渡しがあったものとみなす。」に読み替える。
・機械装置の所有権は代金の全額を支払ったのちにY社からX社に移転するものとする。
X社は女雪の業務請負基本契約にもとづき、平成24年8月21日にY社に対して注文書を発行し、本件機械装置の製造と設置を発注し、Y社は平成24年11月5日に本件機械装置の組み立て設置工事に着工、X社は平成25年5月27日にY社に対して次の事項を記載した検収書を発行しました。
・納入年月日 平成25年3月3日
・検収日 平成25年5月27日
納入年月日と検収日のズレについてですが、判決によれば平成25年2月18日ないし20日に本件機械装置の設置と立ち会いを完了したものの、本件機械装置の不具合の対応のため検収日がずれ込んだようです。この2つの日付の違いが、今回の事例が生じた最大の原因となります。X社では本件機械装置の取得日(≒事業供用日)を平成25年3月として決算申告を行ったのに対して、税務署側は平成25年5月が取得日だと主張し、裁判になりました。先にふれたようにX社は3月決算法人なので、3月に本件機械装置を取得したとすれば、1ヶ月分の減価償却費を計上できますし、本件機械装置にかかる消費税(約880万円)について仕入税額控除を適用できるわけです。ちなみに本件機械装置の請負金額は税抜価額で1億7,650万円なので「食料品製造業用設備」として年間の減価償却費を計算すると3,530万円で、1ヶ月あたりでは約294万円となります。これに対して税務署側が主張するように本件機械装置の取得時期を平成25年5月とされてしまうと、X社が計上した約294万円の減価償却費と約880万円の仕入税額控除が否認されることとなります。
X社としては何としても3月中の本件機械装置を取得したとしたいところですが、X社と税務署は裁判でどのような主張を行ったのかを次に見ていきたいと思います。
X社の主張
X社は減価償却資産を各事業年度終了の時において有しているか否かは、減価償却資産が法人の事業の用に供され、その用途に応じた本来の機能を発揮することによって実際に収益の獲得に寄与する程度に自己の支配下に移されているか否かによって判定されるべきと主張した上で、本件機械装置が平成25年2月から3月において製品の出荷に用いられ販売実績を挙げていると主張しました。
このX社の主張については、先に述べた適正な期間損益計算という減価償却制度の目的にも沿っており一定の説得力を感じますね。
税務署側の主張
次に税務署側の主張ですが、税務署側は減価償却資産を各事業年度終了の時において有しているか否かの判断基準は、原則として私法上の法律関係に即して解するべきであるから、所有権移転の原因となる私法上の法律行為の有無によって判定されるべきと主張しました。今回の事例ではX社とY社は本件機械装置の製造と設置について請負契約を締結しています。請負契約については民法第632条にて「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と規定されており、所有権がいつの時点で移転するのかまでは規定されていませんが、税務署側は完成させた物を引き渡すのが請負契約なのだから、X社のY社から完成した本件機械装置の引渡しを受けた時が、本件機械装置の取得した日であると主張しました。
先に見たX社とY社の契約内容では、覚書にて「検収時に機械装置の引渡し」つまり所有権の移転があったものとみなすとしていました。そして検収日を平成25年5月27日とする検収書をX社がY社に発行しています。こうして見ると、厳密に法律関係に即して考えれば確かに税務署側の主張も分かる気がします。
では最後に裁判所がどのような判断を示したのか見てみましょう。
裁判所の判断
減価償却資産の取得の時期については判決の中で、「取得」とは当該固定資産に係る所有権移転の原因となる私法上の法律行為又はこれと同視することのできる行為をいうものと解し、その時期については所有権移転の時期これに当たるとしました。税務署側の主張どおりですね。
そして請負契約について、所有権移転の時期について契約の中で同意があればそれにより、同意がなければ完成物の引渡しを受けることによって所有権が移転するものとし、今回の事例のように機械装置を稼働させることを目的とした請負契約は、請負人つまりY社においてはその機械装置をその使用目的にそって使用することが可能な状況にすることが当然予定されているので、機械装置が注文者つまりX社の工場に設置され事実上占有しただけでは取得したものとはいえないという判断を示しました。
その上で、先に見た事実関係やX社のY社に対する代金の支払い状況などにもとづき、X社が本件機械装置を取得したのは早くても平成25年5月27日であるとしました。
最後に
この事例、地裁で納税者が負けて、その後高裁、最高裁と納税者は頑張ったんですが、結局逆転することはなく終わりました。納税者の主張について判決文の中では「原告の主張は、いずれも、納税義務者が固定資産の使用収益権限を実質的に取得していれば当該固定資産に係る減価償却費の損金算入を認めるべきであるとの主張を前提とするものであり、これを採用することができないことは既に説示したとおり」であると一蹴しています。
この事例の怖いところは、下手に減価償却制度について理解があると「すでに製造過程に用いられて製品の出荷に役立っているのなら費用収益対応の原則から減価償却費を計上すべき」と考えがちになる点かと思います。ただ、あくまで費用収益対応の原則とは会計の正解の話であり、法人の決算申告は税法の正解の話なので、法人税法の条文をベースに考えると税務署や裁判所の考え方が正しいということになります。
最後になりますが、この事例では本件機械装置の仕入税額控除も認められませんでした。減価償却費もダメ、仕入税額控除もダメという残念な結果になったわけです。自分がX社の顧問税理士だった思うと震えます。今回の事例が皆さんのお役に立てば幸いです。
今日のお話はこんな感じです。お読みいただきありがとうございました!