冷蔵庫が器具備品ではなく機械装置!?更正処分を受けたパン屋さんの事例をもとに解説します!
こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です!
今日は減価償却のお話をしたいと思います。減価償却というと、簿記を勉強されたことのない方には聞き覚えがない言葉かもしれません。一言でいうと減価償却とは、時の経過や使用によって価値が減少する資産を耐用年数に応じて経費化することをいいます。
目次
減価償却を行う理由
なぜこのような面倒なことをするのか?その背景には「費用収益対応の原則」という企業会計の考え方があります。費用収益対応の原則とは、収益と費用を対応させるべきという考え方のことです。そしてこの対応には個別的対応と期間的対応の2つがあります。個別的対応とは、例えば商品を仕入れて店舗にて売った場合のその商品の原価と売上の対応のような直接的な対応を指します。逆に期間的対応とは事業年度という期間を通した間接的な収益と費用の対応をいいます。先の例で言えば、商品を仕入れて売った場合、その売上とその店舗の家賃がそれにあたります。
費用収益対応の原則は、適正な損益計算を行うために必要となります。例えば、令和4年の売上と令和3年に仕入高を対応させれば、当然、誤った損益計算が行われることになりますので、こういった誤った損益計算が行われないように費用収益対応の原則を設けているわけです。
具体例
この費用収益対応の原則と減価償却の関係について、商品の配達に利用するため自動車を購入した場合をを例に解説します。自動車というと、購入してから数年から十数年は利用するのが一般的だと思います。配達用に100万円の自動車を購入し、その後10年間に渡って商品の配達業務に利用した場合、減価償却を行わずに、自動車を購入した事業年度において購入費用の100万円をそのまま費用計上すると、前払いした費用を一括して費用に計上することとなるので、売上と費用が対応せず適正な損益計算ができなくなります。費用収益対応の原則からいうと、使用した10年間にそれぞれの年の商品の売上高と自動車の購入費用を対応させる必要があります。
ここで減価償却という考え方がでてきます。10年間その自動車を利用するわけですから1年につき10万円を経費計上すれば、各年の売上高との期間的な対応がなされることより適正な損益計算が実現わけです。このような場合に、1年につき10万円を経費計上することを減価償却、経費化していく期間(この場合だと10年)を耐用年数といいます。
耐用年数の決め方
この耐用年数については、減価償却資産の耐用年数等に関する省令おいて、別表第一から第六まで種類、構造・用途、細目に応じて細かく決められています。例えば、建物では、構造・用途の区分が8つあり、それぞれ事務所用、住宅用など細目が定められています。特に細かいのが金属造の建物で、まず骨格材の肉厚に応じて構造・用途が3つに分けられており、その3つそれぞれに細目があり、細目ごとの耐用年数があります。
税理士とって、ある減価償却資産がどの種類、構造・用途、細目に該当するのかを検討することはかなり重要な仕事です。なぜなら、耐用年数によって各事業年度の経費化できる金額が異なってくるからです。仮に、正しい耐用年数より短い耐用年数を適用すると、経費化した金額が過大となるので正しい確定申告が行われないことになりますし、逆に正しい耐用年数より長い耐用年数を適用すると経費化した金額が過小となり、納税者に余計な税負担を強いることになります。
器具備品が機械装置と判断された事例
今日紹介する事例は、自社でパンの製造から販売を行っているX社が、製造工程で利用する冷蔵庫を器具工具備品に該当するものとして決算申告を行ったところ税務署からその冷蔵庫は機械装置に該当するものとして更正処分を受けた事例になります。
論点となる冷蔵庫が器具備品、機械装置のいずれに該当するのかという点についてですが、下記の国税庁が公表している「主な減価償却資産の耐用年数表」の器具備品に「電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気・ガス機器」が挙げられているように、ほとんどの場合、器具備品に該当するものと判断されるかと思います。「電気冷蔵庫」って書いてありますしね。この場合、耐用年数は6年となります。これに対して、機械装置に該当すると「食料品製造業用設備」として耐用年数は10年となります。つまり、X社が購入した冷蔵庫が機械装置と判断されてしまうと、耐用年数6年で計上した経費が過大であったことになるので、X社としては機械装置ではなく器具備品であると主張したわけです。
結論を言ってしまうと、この事例では裁判所はX社の冷蔵庫について、器具備品ではなく機械装置であると判断しています。では、なぜこの事例では器具備品ではなく機械装置と判断されたのか?まず、前提事実から見ていきましょう。
前提事実
納税者であるX社は、パンとお菓子の製造から販売までを行っている会社です。店舗併設工場及び全国6箇所にある製造工場で、パンとお菓子の生地の仕込みから焼き上げまでの全工程を行い、全国展開している店舗で販売しています。工場における製造工場は概ね9つであったようです。
①原料の受け入れ及び保管
②生地の生成
③生地の一次発酵
④生地の小分け
⑤生地の寝かし
⑥生地の成形
⑦生地の二次発酵
⑧生地の焼成
⑨スライス及び包装
これらの製造工程のうち、問題となっている冷蔵庫は、生地の発酵の調整、低温発酵等のために用いれていました。
次に税務署と納税者がそれぞれ主張した機械装置と器具備品の区別の基準について見ていきます。
税務署側の主張
・ある減価償却資産が機械装置と器具備品のいずれに該当するのかは、機械装置と器具備品の意義に関して明確な規定がないことから立法趣旨、関連法規の用例・意義等を考慮して解釈するべきである。
・具体的には別表第二の「機械装置」、別表第一の「器具備品」のいずれに該当するかを検討して判断するのが相当である。
・別表第二の「機械装置」は機械装置について、食料品製造業用設備、家具又は装備品製造業用設備といったような形で、産業用設備の種類ごとに一括りで耐用年数を定めており、個別の設備細目一つ一つに耐用年数を定めていない。
・その理由は、機械装置が製造過程の全工程において有機的に牽連結合しており、個々の細目ごとの区分が明らかではないことから一括して産業用設備の種類ごとに耐用年数を定めて簡易化を図っていることなどである。
・また別表第二の「機械装置」は、日本標準産業分類の中分類に従って「〇〇業用設備」として区分されていることからすると、「〇〇業のために用いられている機器」が機械装置に該当すると言うべきであり、製造業であれば、製品製造のための一連の工程において用いられる機器の集合体を指すものと解釈することが自然である。
・つまり、機械装置とは製品製造の一連の工程の中で供用され、それぞれの機能によって製造設備等の一部を構成している各機器のことをいう。
・これに対して別表第一の「器具備品」は、個別の資産ごとに耐用年数を定めており、その規定の仕方から器具備品とは、それ自体が固有の機能を果たし独立して使用される機器だと考えられる。
次に納税者側の主張を見ていきます。
納税者側の主張
・ある減価償却資産が機械装置と器具備品のいずれに該当するのかは、機械装置と器具備品の意義に関して明確な規定がないことから、その解釈については法的安定性、明確性、納税者の予見可能性の見地からなされるべきである。
・別表第一の「器具備品」では個別具体的に資産が例示されているのに対して、別表第二の「機械装置」では設備の種類が抽象的に挙げられていることから、納税者としては別表第一の「器具備品」に掲げられている資産(この事例では冷蔵庫)について器具備品に該当すると判断するのは当然であり、そのような資産については器具備品に該当するべきである。
冷蔵庫は器具備品か?それとも機械装置か?
両者の主張を見ると、正直言って税務署側の主張が具体的で説得力があるように思えますね。税務署と納税者は、それぞれの機械装置と器具備品の区別の基準を述べた上で、問題となっている冷蔵庫が機械装置、器具備品のいずれに該当するものかについては次のように述べています。
税務署側はパンの製造工程において生地の温度、発行状態、湿度等の管理調整が非常に重要であり、問題となっている冷蔵庫は生成した生地を焼成するまでの工程及び完成したパンの保管においてその機能を果たしているを挙げて、当該冷蔵庫がパンの製造設備の一部を構成していることから機械装置に該当すると主張しました。
これに対して納税者側は、まず冷蔵庫が電気冷蔵庫として別表第一の「器具備品」に掲げられていることあげ、次に、器具備品が物理的、機能的に独立したものであるのに対して、機械装置は製造工程において有機的に牽連結合して機能し個々の資産の内容から見て細目ごとの区分が不明瞭であり、区分自体が不可能または困難であることから業種ごとに一律に耐用年数を定めてられていると述べて、当該冷蔵庫は機能的にも物理的にも他の製造設備から独立しているとして当該冷蔵庫は器具備品に該当すると主張しました。
裁判所はどのように判断したか
これらの主張に対して裁判所のどのように判断したのか、判決の内容について見ていきます。
判決では機械装置の意義について「製品の生産・製造又は役務の提供を目的として1つの機器が単体で、又は2つ以上の機器が有機的に結合することにより1つの設備を構成する有形資産」と解しています。税務署側の見解とほぼ同じですね。その上で、適正な損益計算により投下資本の回収を図るという減価償却資産の制度の趣旨からすれば、ある資産が機械装置に該当するか否かはその資産の用途、機能、実際の設置使用状況等にもとづいて判断するのが相当であり、通常は器具備品に該当する資産であっても一定の設置使用状況等の下では機械装置に該当しうるとしています。
その上で問題となった冷蔵庫が機械装置に該当するか判決の中で検討されているわけですが、先に見た製造工程における冷蔵庫の役割を前提に、冷蔵庫が各工場において有機的に他の設備と結合し、一体となって大量のパンの製造を行っているものとして、当該冷蔵庫は機械装置に該当するという判断を示しています。
最後に
今回取り上げた事例は、冷蔵庫という別表第一の「器具備品」に掲げられ、それ自体が独立して機能する資産が、製品の生産・製造の工程で利用される設備に組み込まれている場合に、どのように取り扱われるべきかを示した事例かと思います。事業のために冷蔵庫を購入し、耐用年数を調べようと国税庁のホームページをみたら、器具備品として「電気冷蔵庫」が掲げられており、耐用年数6年と記載されていたといったときに、大抵の方は「ああ、冷蔵庫の法定耐用年数は6年なんだ」と考えてしまうのは当たり前の話ではあります。ただ、この辺は法律用語と一般用語の違いというか、私たちが普段使っている言葉が、法律のなかで使用された場合に、普段使っている言葉の意味とは少し異なる場合があるので、注意が必要なところではあります。
機械装置と聞いてすぐに「製品の生産・製造又は役務の提供を目的として1つの機器が単体で、又は2つ以上の機器が有機的に結合することにより1つの設備を構成する有形資産」と解釈するのは、かなり難しいと思います。今回の事例を見て税法の複雑さを感じてもらえればと思います。
今日のお話はこんな感じです。お読みいただきありがとうございました!