出張旅費規定、作っていますか?出張旅費日当を経費にする方法

こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です!

今日は旅費日当のお話をしたいと思います。出張の際に支払われる旅費日当、実は出張旅費規程の有無によって税務上の取扱いが異なることはご存知ですか?

既に旅費日当を支給しているけれど出張旅費規程を整備していない会社や今後の旅費日当の支給を検討している会社の社長さんに是非知っておいていただきたい情報なので少し長くなりますがお付き合いください。

旅費日当の支給を出張旅費規程で定めている場合のメリット

旅費日当の支給を出張旅費規程で定め、役員や従業員に金銭を支給した場合のメリットは次の3点です。

①旅費日当として支給された金品は、所得税における非課税所得となるため、所得税及び住民税が課税されない。

②社会保険の標準報酬月額の算定対象から除外されるため、社会保険料が増加しない。

③消費税の仕入税額控除が適用される。

一つずつ解説していきます。

まず①の「旅費日当として支給された金品は、所得税における非課税所得となるため、所得税及び住民税が課税されない。」についてですが、所得税法では第9条1項で所得税が課税されない非課税所得を定めています。そのなかで出張旅費等について定めているのが次の第4号の条文です。

給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの。

まとめると、職務のために出張した場合、転任した場合、就職、退職により転居した場合に、その旅行の支出に充てられる金品で、通常必要なものについては所得税を課さないという内容となっています。

なぜ非課税になるのか、所得税はその人の所得に対して課される税金ですが、出張の支出に充てられる金品は実費弁済にすぎません。つまり、金品の支給を受けたとしても、それは出張の際に費消されてしまうので、所得税の対象から除外しよう趣旨から非課税となっています。

つぎに②の「社会保険の標準報酬月額から除外されるため、社会保険料が増加しない。」についてです。社会保険料は給与の総支給額に応じて算定された標準報酬月額にもとづいて計算されます。社会保険上の報酬は「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。」と定義されており、旅費日当は前述の通り実費弁済の性格を持つものなので、標準報酬月額の算定対象から除外されることになります。つまり、年がら年中、出張で日本中を飛び回っているような人でも旅費日当部分については標準報酬月額の算定から除外されるので、給与から控除される社会保険料は増えることはないということです。

最後は、③の「消費税の仕入税額控除が適用される。」です。もし、出張旅費規程を整備せずに旅費日当を支給した場合、それは賃金として扱われ、消費税法上、不課税取引となります。不課税ですので、消費税の仕入税額控除は適用されません。しかし、下記の消費税法基本通達11-2-1により出張旅費規程を整備することで仕入税額控除を適用できます。

役員又は使用人(以下「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族(以下11-2-1において「退職者等」という。)がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、事業者がその使用人等又はその退職者等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱う。

ここでも旅費日当の実費弁済という性格が重要となります。実費弁済という趣旨で支給されるものなので、当然何かしらの物品を購入することを前提として支給されています。購入するものには消費税が課税されていますから、そこに旅費日当の課税仕入れとしての性質を認め、仕入税額控除の適用を認めているという趣旨の通達となります。まぁ、細かいことを言えば、その購入したものの中には食品など軽減税率が適用されているものもあるかもしれませんが、あったとしても少額であると考えられるため、一律で標準税率による課税仕入れとして扱われます。

旅費日当を支給するための要件

このように様々なメリットがある旅費日当ですが、この所得税法第9条1項4号の適用を受けるための要件について所得税法通達9-3でこのように規定されています

法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。

(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。

(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

まず、非課税とされる金品については運賃、宿泊料、移転料等に充てられるものしています。そのうえで、様々な要素から通常必要とされる費用の支出に該当するものか判断することとし、具体的な判断基準を2つ挙げています。簡単に言うと、(1)は、支給額を恣意的に変更できないように、適正なバランスを保っている基準に従って旅費日当を支給しているかどうかということです。この基準を文書にしてまとめたものが出張旅費規程となります。また(2)は、その支給額が同業同規模の他社と比較して過大かどうかということです。

旅費日当の金額をどのように設定するか?

上記の2つの基準に従って旅費日当を支給するには、まず社長と一般社員にどの程度の金額を支給するのが適正なのかを考える必要があります。その金額が、旅費日当の上限と下限になるので、あとは各会社の実情に合わせて役職ごとに金額に差をつけて旅費日当の金額を設定することになります。

では、適正な旅費日当の金額とはどの程度のものなのでしょうか?

参考になるものが2つあります。一つは産労総合研究所が公表している「国内・海外出張旅費に関する調査結果」、もう一つが旅費日当の金額の適正性が問われた裁判例です。

まず、「国内・海外出張旅費に関する調査結果」ですが、これは産労総合研究所が発表しているレポートで、有料になります。ただ2019年度の調査については下記のホームページで概要を公表しているので、無料で見ることができます。

https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/shanaiseido/shuccho/pr2007-2.html

これによると、旅費日当の平均支給額は社長で4,598円、一般社員で2,355円となっており、切りの良い数字にするとために千円未満を四捨五入すると、社長で5,000円、一般社員で2,000円が他社の事例から見た妥当な数字ということになります。

次に旅費日当の金額が問題となった裁判例を見てみましょう。宇都宮地裁昭和50年10月16日判決です。かなり古い裁判例ですが、この裁判例、税理士としては別の意味で興味深いものとなっています。

概要としては昭和35年から昭和37年の間に、ある会社が代表取締役とその妻である取締役に対して、旅費日当して一日当たり3,000円を支給していたことに対して税務署側が旅費日当の適正額は1日当たり1,000円であるとして更正処分をし、会社側が提訴したというものです。

興味深いというのはこの提訴した会社の代表取締役というのが飯塚毅であるという点です。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、上場企業の株式会社TKCの創業者で税理士という税理士業界では著名な方です。高杉良の小説『不撓不屈』のモデルでもあります。結果としては会社側が敗訴した事例となりますが、個人的には妥当な判決だと思います。昭和35年から昭和37年の3,000円がどの程度の価値かというと、令和2年の消費者物価指数を100とした場合の昭和35年~37年の平均消費者物価指数は20.16なので、昭和35年~37年頃の3,000円は今で言う14,880円程度となります。つまり飯塚毅先生は一日当たり15,000円弱の旅費日当を受け取っていたわけです。正直、税理士としては「飯塚先生やりすぎじゃありませんか・・・」という気がしないでもないです。

それはともかく、上記の事例では1,000円は経費として認められているので、今で言えば5,000円弱は旅費日当として認められたということです。このことから、社長の旅費日当としては裁判例においても5,000円程度が相当と考えられていると思われます。

出張旅費規程を整備する際に決めるべきこと

旅費日当の支給を出張旅費規程で定めている場合のメリットと、旅費日当の適正額についてお話しました。次に出張旅費規程を作成する上で決めるべきことについてお話したいと思います。それは出張の定義です。ネット上の様々な出張旅費規程の雛形を見ると、自宅または勤務地か〇〇キロメートルとする雛形が多いです。そのキロ数を見ると、100キロメートルから150キロメートルまで幅がありますが、仮に100メートルとして、金沢市から自動車で移動すると考えると、福井方面だと越前市、富山方面だと入善町、岐阜方面であれば高山市が大体100キロメートル地点となります。どうでしょう?個人的な感覚ではありますが、そこまで行くのであれば出張と言っても差し支えないのではないかと思います。あるいは、距離数に関係なく職務上、宿泊を伴う移動については出張として取扱うということも可能だと思いますし、距離ではなく金沢市に本社を置く会社であれば北陸三県外への移動を出張と定義することも可能だと思います。そのあたりは会社ごとに事情が異なるので、自身の会社の実情に沿った出張旅費規程となるように考える必要があります。

交通費と宿泊費の定額支給について

ここまで主に旅費日当を中心にお話しましたが、交通費や宿泊費についても出張旅費規程のなかで支給額を規定し、その額が通常必要とされる費用として認められるものであれば定額支給が可能となります。しかし、個人的には中小企業であれば、旅費日当を定額支給にして、交通費と宿泊費については実費精算としたほうが良いのではないかと考えています。出張する営業マンが多数在籍するような大企業であれば、事務負担の軽減という面から交通費と宿泊費の定額支給にもメリットはありますが、インターネットが普及しスマホ一大で切符や宿泊の手配できる現代で、しかも社長一人しか出張する機会がないような中小企業であれば、交通費と宿泊費を定額支給とするメリットが乏しいからです。また、定額支給にすると、支給額を相場の交通費と宿泊料と同額かそれ以上にしなければ従業員の納得を得ることはできません。ほとんど場合、実費よりも多少なりとも高い金額を支給することになるので、その分会社のキャッシュアウトが増えます。さらに定額支給にして、宿泊先を従業員が自由に決めることができるようになると、QUOカード付きの宿泊プランなどを利用して支給額と実費の差額を懐に入れることができますので、社員のモラルが低下する可能性があります。以上のことから個人的には交通費と宿泊料の定額支給はおすすめしませんが、もし定額支給を行うのであれば、交通費と宿泊料についても通常必要とされる費用に係る金額という制限は存在するので、その点に気をつけて金額を設定すべきです。

出張旅費規程の運用上の注意

最後に出張旅費規程の運用上の注意についてお話したいと思います。重要なのは出張の事実を記録に残すこと、そして平等に運用することです。

まず、出張の事実を記録に残すことについてですが、これまでお話した通り、出張旅費規程を整備し、旅費日当を整備することで所得税、社会保険、消費税といった様々な面でメリットを享受することができます。一方でそれは、出張の事実を仮装し、旅費日当を不当に支出すれば、支給を受けた側は課税されずに会社から現金を受け取ることができ、会社側はそれを経費にして法人税と消費税を縮小することができるということでもあります。当然、税務調査において税務調査官が出張旅費規程の存在やその実際の運用についてチェックする可能性は高いと思われます。そのときに、出張の事実の証拠を残すことが重要となります。一般的には出張の際には出張報告書を作成しますので、出張の際には出張報告書を作成して出張の事実の証拠として残しておきましょう。次に平等に運用することについてですが、これは要するに支給する金額や対象者を恣意的に変更しないということです。通達では一定の基準に従って旅費日当を支給することを求めています。事前に定めて基準、つまり出張旅費規程に基づいて支給するからこそ、旅費日当についてその支給を認めているわけです。社長の一存で旅費日当の金額や支給対象者を変更すれば、通達で定めている要件に該当しなくなりますので、役員及び社員を出張旅費規程に基づいて平等に扱うことが大切になります。

出張旅費規程と旅費日当のお話は以上となります。出張となれば様々な雑費がかかるもの、税務署側はそういった実情を踏まえて定額支給を認めているわけですから、出張する機会がある会社では出張旅費規程を作成することで様々なメリットを享受することができますので是非出張旅費規程の整備を検討して頂ければと思います。ただし、出張の事実がないのに出張したかのように仮装して旅費日当を支給することは脱税にあたりますので、くれぐれもそんなことが無いようご注意ください。

今日のお話はこんな感じです。お読みいただきありがとうございました!