インボイス制度でプライバシー侵害?スタートまで一年を切った新制度のゴタゴタについて

こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です!今日のコラムは時事ネタになります。

いわゆるインボイス制度のスタートまで1年を切りました。一部の業界団体から反対論が出てくるなか、インボイス制度を巡り、国税庁の対応に一部変更があったので、紹介したいと思います。

そもそもインボイス制度とは?

そもそものインボイス制度と言われるこの制度、正式には適格請求書等保存方式といい、事業者が消費税を納税する際、売上にかかる消費税から仕入れその他の経費にかかる消費税を控除して納税するのですが、この仕入れその他の経費にかかる消費税の控除(仕入税額控除といいます)の要件が変わることになります。

どのように変わるのかというと、適格請求書を保存しないと仕入税額控除が適用されないというだけなのですが、この適格請求書というのが厄介で、インボイス制度においては適格請求書を発行できるのは消費税の課税事業者だけという形になるので、消費税の納税義務が免除されている事業者、いわゆる免税事業者は適格請求書を発行することができません。

これがどのような問題に発展するかというと、免税事業者を取引先から排除するということが考えられます。仕入税額控除が適用されないならば、支払う側としては同じ金額を払うのであれば、免税事業者ではなく、課税事業者に支払ったほうがお得だからです。

プライバシー問題

この他に指摘されている問題としてはプライバシーの問題があります。例えば日本漫画家協会はインボイス制度について次のような声明を発表しました。

ペンネームで活動することの多い漫画家にとってはインボイス発行事業者になると「適格請求書発行事業者公表サイト」に本名が公表されるため、個人情報保護への懸念を抱く漫画家も少なからず存在するのが実情です。

声明の中にでてくる「適格請求書発行事業者公表サイト」というのは、事前に適格請求書発行事業者(適格請求書を発行できる消費税の課税事業者)を検索できる国税庁のサイトなのですが、登録されている適格請求書発行事業者のデータベースをCVS形式でダウンロードできます。公表されるのは登録番号、氏名、住所、屋号なのですが、住所と屋号については事業者自身が公表することを申し出なければ公表されることはありません。それでも氏名は公表されるのでプライバシーの面から懸念を抱く方々がいらっしゃいました。

プライバシー問題への対応

いらっしゃいましたと過去形なのは、この適格請求書発行事業者の情報の取扱いが先月、一部変更になったからです。これが本コラムの本題になるのですが、まずは下記のツイートを御覧ください。

漫画家で参議院議員の赤松健さんのツイートです。赤松健さんといえば私の世代だと『らぶひな』が有名なんですけど、それはともかく、このなかでプライバシーの問題について国税庁に申し入れしたことが書かれています。

そしてこのツイートから約二時間後、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」から適格請求書発行事業者のデータベースがダウンロードできなくなりました。

そして、ダウンロードが停止されてから4日後、個人事業主については下記の10項目がデータベースから削除されることが発表され、データベースのダウンロードが再開されました。

①本店又は主たる事務所の所在地(公表申出)

②本店又は主たる事務所の所在地都道府県コード(公表申出)

③本店又は主たる事務所の所在地市区町村コード(公表申出)

④日本語(カナ)

⑤氏名又は名称

⑥国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地

⑦国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地都道府県コード

⑧国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地市区町村コード

⑨主たる屋号

⑩通称・旧姓

プライバシー問題は解決したか?

これでプライバシーの問題も解決を思いきや先日このようなツイートを見つけました。

適格請求書発行事業者公表サイトからダウンロードしたCSVファイルに記載されている登録番号から氏名が分かるという内容です。

なぜこのようなことが可能か。適格請求書発行事業者公表サイトのデータベースのダウンロード再開のお知らせにこうあります。

「登録番号による検索機能」及び「適格請求書発行事業者公表システムWeb-API機能」では、上記10項目の値について、引き続き提供しております。

つまりダウンロードできるデータベースからは削除したけど、他の方法で確認することはできるということです。プログラミングの知識が必要であったり、適格請求書発行事業者公表システムのWeb-API機能を使用するための登録を行う必要があるなど従前と比較すると多少ハードルは上がっているとも言えますが、実はプログラミングの知識ゼロでも登録番号から適格請求書発行事業者の氏名を知ることができる方法があります。

Excelで登録番号から氏名を知る方法

※この方法、Excel2013があればだれでも出来ます。

まず、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトにアクセスしメニューの「ダウンロードWeb-API」をクリックし、「公表情報ダウンロード」をクリックします。

CSV形式の個人のダウンロードファイルをダウンロードします。

ダウンロードしたzipファイルを開き、CSVファイルを開くとこのように登録番号がわかります。

適当なセルに

「=WEBSERVICE("https://api.excelapi.org/company/invoice_name?id="&〇〇)」

と打ち込みます。「〇〇」となっている部分は登録番号を参照するようにしてください。画像の例だと「B1」になります。そしてオートフィル機能を使うと・・・

氏名が取得できてしましました。これはExcelAPIというExcelにインターネットからデータを取り込むサイトを利用したもので、だれでも出来ます。

このようにプライバシー問題に配慮して氏名などをデータベースから削除したと言っても、実態はザルです。税理士としては顧問先の取引先について事前に適格請求書発行事業者であるか否かを調べる手間が増えるなと当初のダウンロード停止のニュースを見て思っていたので、ある意味都合が良いのですが、プライバシー問題を心配されている方にとっては形だけ対応したかのように見えるのではないでしょうか。

終わりに

インボイス制度の導入は消費税制度開始以来の最大の改正と言われています。新しい制度なので今後も様々な混乱があると思いますが、今回のプライバシーを巡る混乱もそのひとつなのかもしれません。

今日のお話はこんな感じです。お読みいただきありがとうございました!