短期前払費用の意外な落とし穴についてお話します!

こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です!

先日、倒産防止共済についてコラムを書きました。

そのなかで倒産防止共済を経費計上できる理由として短期前払費用の費用計上が認められていることを挙げましたが、今日はその短期前払費用についてお話したいと思います。

短期前払費用の通達の内容

短期前払費用については通達にその内容が書いてあります。少し長いですが引用します。

前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。

(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。

通達の中でもふれられていますが、前払費用は原則として費用計上できません。法人税法第22条3項にこのように規定されているからです。

内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

ここで重要なのは二項において「一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)」とされていることです。前払費用はその名の通り、支払った費用のうち、その時点ではまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいますから、役務の提供がなければ当然ながら債務も確定していないので、費用計上はできないことになります。

では、なぜ通達で前払費用の経費計上を認めているのか?ヒントとなるのが重要性の原則という言葉です。

前払費用の経費計上が認められている理由

先に見た法人税法第22条3項に続く4項ではこのように規定されています。

4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

つまり、収益や費用の具体的な計算方法については一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することとされているわけですが、その一般に公正妥当と認められる会計処理の一つとされているものに企業会計原則というものがあります。

企業会計原則とは企業会計の基準です。会計における憲法ともいえるものですが、その注釈1に重要性の原則として次のような記述があります。

企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

つまり重要性が乏しいものについては簡便的な方法をつかっても良いという規定です。前払費用を例にすれば、厳密な会計処理としては決算時に前払費用として計上し、費用から除外しなければいけないものでも重要性が乏しければそのまま費用に計上しても良いということです。

乱暴にまとめるとこうです。

法人税では費用について、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することとしている。

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の一つである企業会計原則のなかで、重要性の原則として重要性の乏しいものについては簡便な方法が認められている。

法人税においても重要性の乏しいものについては簡便な方法による経費計上が認められる。

このように一部の前払費用については短期前払費用として費用計上が認められる場合があります。次にどのような前払費用が短期前払費用に該当するのかを見ていきます。通達だけでは読み取れない内容もあるので注意が必要です。

短期前払費用の要件

通達の内容から読み取れる短期前払費用の要件は

①支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る費用であること

②継続して支払った日の属する事業年度の経費としていること

③収益の計上と対応させる必要があるもの以外であること

の3つです。

具体的に見ていきましょう。

まず①の「支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る費用であること」についてですが、例えば3月決算の法人が3月中に翌事業年度分(4月1日~翌年3月31日)の費用を支払った場合は該当します。逆にこれが2月中に支払った場合は、翌年3月が1年1ヶ月目となるため、1年以内に提供を受ける役務には該当しないことになります。対象期間が現事業年度の3月から翌事業年度における2月であればOKです。ちなみに厳密に考えれば、3月決算の法人が3月中に翌事業年度分(4月~翌年3月)の費用を支払った場合に、その支払日が3月10日であったとすると、翌事業年度の3月11~31日は1年以内の含まれないことになりますが、この場合はどうなるのでしょうか?実務上はこういった日割り部分での期間超過については1ヶ月以内であれば短期前払費用として認められるようです。

なお、「支払った」の意義についてですが、現金での支払いや銀行振込のほか支払手形の振出も支払った場合に該当するものとされています。

次に②の「継続して支払った日の属する事業年度の経費としていること」についてです。

これは要するに事業年度ごとに年払い、月払いに変更するなど都合の良い方法を選択しては駄目ということです。なぜ駄目かというと恣意的な利益操作に繋がるためです。

最後に③ですが、これは収入と対応するような費用については短期前払費用から除外するという内容です。短期前払費用の経費計上は、先述の通り重要性の原則から重要性の乏しいものについて特例的に認められた会計処理ですが、収入に対応する費用は重要性が高いと考えられるため、短期前払費用から除外されます。

ここまでが通達からと見とれる短期前払費用の要件となりますが、じつはこれだけでは短期前払費用として認められません。タイトルで短期前払費用の落とし穴といったのはこの部分なんですが、次の2つとなります。

④役務の提供が均質均量であること

⑤短期前払費用を経費計上することにより課税上の弊害が生じないこと

④の役務の提供が均質均量であることについてですが、典型的なものは次の通りです。

・土地や建物の賃料

・システムのリース料

・保険料

・雑誌の年間購読料(電子版)

・支払利息

逆に均質均量ではない役務の提供としてよく例に挙がるのが弁護士や税理士に支払う顧問料です。ですので、弁護士や税理士に翌年分の顧問料を前払いしたとしても短期前払費用として経費計上することはできません。

なぜ、均質均量と役務の提供でなければならないのか?正直言って通達だけを見ると理解できないかもしれません。ヒントは通達と企業会計原則における前払費用の定義です。

通達における前払費用の定義はこうでした。

一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。

企業会計原則ではこうです。

一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。」前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。

通達と企業会計原則の前段はほぼ同じ内容です。企業会計原則ではさらに前払費用について「このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるもの」としています。つまり、通達で定義されている前払費用も企業会計原則と同様に「時間の経過とともに次期以降の費用となるもの」と解釈できます。これが短期前払費用の要件として役務の提供が均質均量であることとされている理由です。

次に⑤の「短期前払費用を経費計上することにより課税上の弊害が生じないこと」についてですが、これは通達の逐条解説にもとづいています。逐条解説というのは通達の解説書で『法人税基本通達逐条解説』は1,700ページ以上の大著です。そのなかで短期前払費用について

本通達は、短期の前払費用について、課税上弊害が生じない範囲内で費用計上の基準を緩和し、支払ベースでの費用計上を認めるというものである。したがって。この取扱いを悪用し、支払ベースにより一括損金算入することによって利益の繰延べ等を図ることがおよそ認められないことは言うまでもない。

『法人税基本通達逐条解説』佐藤友一郎編著

と触れられています。ちなみにこの「課税上の弊害が生じない範囲内」とは課税所得に対してさしたる影響をもたない程度という意味と考えられています。1「課税上弊害が生じない範囲内」なんて通達に書いてない!とも言えますが、課税上の弊害が生じるほどのということは重要性も高いということで、そもそもの趣旨である重要性の原則から外れるということのようです。

課税上の弊害があると判断された事例

課税上の弊害があるということで短期前払費用の適用が認められなかった事例として東京地裁平成17年1月13日判決があります。この事例では複数の争点がありますが、そのなかの一つとして地代家賃等の前払費用2億1,272万2,356円が否認(費用計上が認められなかったということです。)されました。判決ではまず2億円超という金額に着目して、その金額が訴えた会社つまり原告の純利益の10倍近いことを理由に財務内容に占める割合や影響が大きいとしています。ちなみに原告は、前払費用の金額が2億円超であっても販管費全体に占める割合は約5%であるとして財務内容へ与える影響は甚大ではないと主張しましたが、判決では2億円超という金額を当期純利益と比較することは不合理ではないこと、そもそも2億円超という金額からして全体に占める割合が5%であったとしても、財務内容に与える影響は大きいとしてその主張を退けました。続けて判決では2億円超の前払費用を経費計上した目的について次の2点を挙げて利益を圧縮して租税負担を回避することであったと判断しています。

第一に、これまで月払いだった家賃の支払いを年払いにした合理的な理由が見当たらないこと、第二に、原告の経理部長が銀行の担当者に税金対策の相談をし、家賃の前払いを提案されており、顧問税理士が経理部長に対して費用計上案として地代家賃の賃料等の金額を一覧表にして作成し送付していることです。

短期前払費用を経費計上することに対して、課税上の弊害の有無を判断する基準としては、その短期前払費用の金額と他の指標(売上高、当期純利益等)の比較と、その短期前払費用そのものの金額の大小を検討していることが分かります。また、短期前払費用を経費計上するに至った経緯も重要でしょう。この辺りは様々な要素を考慮した総合的な判断ということになるので、一概にこうすれば必ず大丈夫とは言えませんが、短期前払費用を経費計上することの正当性について記録を残して、税務調査の際に指摘されても反論できるようにしておくべきかと思います。

終わりに

短期前払費用ついてのお話は以上となります。通達を読んだだけでは分からない、用語が持つ”含み“を理解しておかないと、意外な落とし穴に落ちてしまうかもしれないということをご理解頂けたかなと思います。

今日のお話はこんな感じです。お読みいただきありがとうございました!