迷ったらまずコレ!倒産防止共済で決算前に節税する方法!

節税のためのとりあえず一手としての倒産防止共済

こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です!

今日は倒産防止共済のお話をしたいと思います。倒産防止共済とは、昭和53年に発足した中小企業倒産防止共済制度のことで、取引先企業の倒産の影響で中小企業が倒産することを防止し、中小企業の経営の安定に寄与することを目的とした制度です。

共済という名の通り、一種の保険と考えていただければいいかと思います。詳細は後述しますが、取引先の倒産した場合に一定の条件のもと無担保、無保証人で最高8,000万円まで借入することができます。

そして、税理士にとっては最もポピュラーな節税策でもあります。その理由は、保険付きの事実上の貯蓄でありながら、まとまった金額を経費として計上でき、かつその金額の調整が可能という点です。

今回のコラムでは、なぜ倒産防止共済が節税策として有用なのか、加入する際の注意点などをお話したいと思います。

なぜ節税になる?

上記の通り倒産防止共済は、一般的に税理士から見ると節税策として大変有用な制度ですが、なぜ節税となるのか、その理由をお話ししたいと思います。

節税となる理由は、倒産防止共済に掛け金の前納制度があること、かつ税務上、短期前払費用の経費計上が認められていることの2つです。

前納制度の概要と短期前払費用の考え方

まず、倒産防止共済の掛け金の前納制度についてですが、倒産防止共済に加入すると掛け金を納付する必要があります。掛け金は月々5,000円から20万円まで5,000円単位で自由に決めることができます。そして、前納制度として、向こう1年分の掛け金を一括で納付することができます。

次に短期前払費用についてですが、これは税務上の処理として、支払った日から1年以内に提供を受けるサービスについては、その支払った日の属する事業年度の経費とすることができるというものです。詳細は下記のコラムをご参照ください。

短期前払費用の意外な落とし穴についてお話します!

こんにちは!石川県庁から車で5分の税理士事務所 たまの会計の玉野敦朗です! 先日、倒産防止共済についてコラムを書きました。 そのなかで倒産防止共済を経費計上できる…

つまり、倒産防止共済の前納制度と短期前払費用の税務処理を組み合わせることで、3月が決算の会社は、3月中に翌年度分の掛け金を全納すれば、その掛け金全額を今年度分の決算の経費にすることができるわけです。

倒産防止共済のひと月あたりの掛け金は最大20万円ですので、20万×12ヶ月で240万円を経費計上することができます。

最大で年間480万円を経費にできる方法

また、こういったことも可能です。例えば、来期の決算において大幅な利益増が見込まれる場合、事業年度が始める月から倒産防止共済を月20万円の掛け金で納付していきます。順当に行けば、その事業年度の倒産防止共済の納付額は240万円となりますが、そこにさらに前納制度を組み合わせます。そうすることで、その事業年度分として納付した240万円に加えて翌事業年度分の240万円を経費として計上することができます。つまり、最大で480万円の経費を計上することができるわけです。

ただし、この方法は毎年できるものではありません。なぜなら、翌事業年度分の掛け金を納付しているため、翌事業年度中の掛け金は、翌々事業年度分の前納でしか支払えないためです。

ですので、この方法は会社が一度だけ使える大技といえます。

倒産防止共済の制度について知りましょう!

ここまでで、なぜ倒産防止共済が節税策として有効なのか、一通り知って頂けたかと思います。次に倒産防止共済の加入資格など制度の概要について説明していきたいと思います。

加入資格

倒産防止共済には事業の継続年数や資本金の多寡など加入するための条件がいくつかあります。まず、事業年数が1年未満の場合は加入できません。新たに事業を開始した事業者の方については2年目以降に加入することになります。

また、中小企業を対象とした制度ですので、当然大企業は加入できません。この点については業種ごとに中小企業の要件が定められているので、一覧にしてみました。なお、個人事業主の場合は、資本金、出資という概念がないので、常時使用する従業員数だけで判断します。

業種資本金または出資の総額常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業その他の業種3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下
ゴム製品製造業(※1)3億円以下900人以下
ソフトウェア業または情報処理サービス業3億円以下300人以下
旅館業5,000万円以下200人以下

(※1)自動車・航空機用タイヤ、チューブ、工業用ベルトの製造業は除く。

また、下記の8項目のいずれかに該当する場合は加入することができません。

住所または主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況の把握が困難である場合
事業にかかわる経理内容が不明の場合
すでに借入れを受けた共済金または一時貸付金の返済を怠っている場合
中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金、早期償還手当金、解約手当金の返還を怠っている場合
所得税または法人税を滞納している場合
12か月分以上掛金の納付を怠ったため、または偽りその他不正の行為等のため、中小機構によって共済契約を解除され、解除された日から1年を経過していない場合
偽りその他不正の行為により共済金もしくは一時貸付金の借入れ、または早期償還手当金もしくは解約手当金の支給を受け、または受けようとした日から1年を経過していない場合
既に共済契約者となっている場合

掛金の総額には上限があります!

次に倒産防止共済の掛け金の上限についてお話します。実は倒産防止共済の掛け金には800万円という上限があります。つまり、年度ごとに掛け金を240万円ずつ納付した場合、3年4ヶ月後に納付ができなくなり、節税策として使えなくなります。

掛金額は変更できます

800万円という上限があるとはいえ、一般的な中小企業では、上限に達するまである程度の時間が必要です。利益の増加が見込まれる事業年度に倒産防止共済を使い節税したとしても、浮き沈みのある経済状況のなかで倒産防止共済の掛け金に充てる資金を捻出できないこともありえます。この点については、倒産防止共済の掛け金を変更できるという点がメリットになります。5,000円から20万円まで5,000円単位で掛け金を設定できるので、仮に資金繰りが厳しくなったとしても、それに合わせて掛け金の額を最低限にすれば、年間で6万円の経費まで抑えることができます。この掛け金の額を経営状況に合わせて変更できる点も倒産防止共済の利点だと思います。

最大で掛金総額の10倍まで借入可能

倒産防止共済の本来の機能は、掛け金の総額の10倍まで借入することができる点です。例えば上限の800万円まで掛け金を納付していれば、最大で8,000万円まで借入をすることができます。取引先の倒産などイレギュラーな事態が生じた場合に役立つものですので、この項目で詳細についてお話ししたいと思います。

借入することができる場合

倒産防止共済をつかって借入した金額を共済金といいます。この共済金の借入れを受けることができるのは取引業者が倒産した場合です。ここでいう倒産は次の7つのことをいいます。

倒産の定義倒産日
法的整理申立がされた日
取引停止処分取引停止処分の日
でんさいネットの取引停止処分取引停止処分の日
私的整理通史がされた日
災害による不渡り手形交換日または呈示日
災害によるでんさいの支払不能でんさいの支払期日
特定非常災害による支払不能通知日

倒産日から6ヶ月を経過すると共済金の手続きをすることができなくなりますので注意が必要です。

借入限度額

借入限度額は被害額と掛け金総額の10倍相当額のいずれか少ない額です。原則として50万円から8,000万円の範囲内で5万円単位の額となります。被害額とは取引先の倒産により回収することが困難となった売掛金債権等のことをいいます。また、主要取引先が倒産した場合は、この被害額に一定金額が加算されます。

【参考】

主要取引先とは?

次のいずれかに該当する取引先のことをいいます。

原則

・取引期間が1年以上で、倒産前6か月間の取引依存度が20%以上であること。

例外(取引先事業者が常時変動することを常態とする業種)

1年以上、取引先事業者が常時変動するような取引を行い、かつ、その事業者に対する倒産前6か月間の取引依存度が 20%以上であること。

※取引依存度とは、売上高に占める割合を言います。

加算額の計算

加算額は下記の算式で計算します。

A:倒産した取引先事業者との月間取引額(倒産前6ヶ月間の平均)

B:倒産した取引先事業者に対する取引依存度(倒産前6ヶ月間の平均)

C:加算額=A×(B÷20)

※B÷20が2を超えるときは2とします。

借入の返済期間・利率

倒産防止共済の返済期間は借入額に応じて下記の通り定められています。

借入額返済期間(6ヶ月の据置期間含む)
5,000万円未満5年
5,000万円以上6,500万円未満6年
6,500万円以上8,000万円以下7年

倒産防止共済の借入は無利息となりますが、借入を行うと払い込んだ掛け金のうち、借入額の10分の1相当額が控除されます。つまり、その掛け金が消滅するということです。実質的にこれが利息となります。

一時貸付金制度もあり

倒産防止共済では、上記のような取引先事業者の倒産等の条件を満たしていなくても、借り入れすることができる一時貸付金という制度があります。

この制度を利用する場合は解約手付金の95%相当額を上限として借入することができます。

倒産防止共済はいつまでに、どこで申し込む?

掛金を前納する場合には支払月の5日までに中小企業基盤整備機構に申込書類が届けられている必要があります。手続きの遅延などがあるかもしれませんので、決算月の前月中旬までには手続きを終えるようにしましょう。

倒産防止共済の窓口は大きく分けて2つあります。一つが中小企業基盤整備機構が委託している団体です。委託団体には商工会、商工会議所などがありますので、会員になられている方は委託団体に申し込みを行います。

もう一つが金融機関の本支店です。金融機関の本支店については、金沢市内であれば、ゆうちょ銀行や農協、労働金庫を除くほとんどの金融機関が代理店となっています。金融機関の店頭に「独立行政法人中小企業基盤整備機構代理店」という文言が掲げられていれば間違いなく倒産防止共済の申込みができます。

なお、金融機関の窓口で申し込む場合には、融資取引のある金融機関の本支店で行うこととされています。どの金融機関とも融資取引がない場合は、事業上の預金取引を一年以上継続している金融機関の本支店で手続きができます。

解約した場合

倒産防止共済を解約すると掛け金が解約手当金という形で返金されます。返金率は掛金の納付月数と解約の事由に応じて次の通り定められています。

掛金納付月数任意解約機構解約みなし解約
1ヶ月~11ヶ月0%0%0%
12ヶ月~23ヶ月80%75%85%
24ヶ月~29ヶ月85%80%90%
30ヶ月~35ヶ月90%85%95%
36ヶ月~39ヶ月95%90%100%
40ヶ月以上100%95%100%

任意解約とは契約者が任意で行う解約を言います。機構解約は、掛金を12ヶ月以上滞納するなどの事由に該当した場合に中小企業基盤整備機構側から解約することをいいます。最後のみなし解約は共済契約者の死亡、解散などが生じた際にその時点で解約されたものとみなすというものです。

見ての通り、40ヶ月分以上の掛金を払い込めば、いつ解約しても掛金総額が解約手当金という形で100%返金されます。ただし、この解約手当金は事業上の収益となりますので、注意が必要となります。それについては次の項目で詳細をお話したいと思います。

倒産防止共済は出口戦略が重要です!

倒産防止共済の解約手当金は、事業上の収益となります。解約のタイミングによっては節税とならないこともありますので、具体的な例を挙げて倒産防止共済の出口戦略の重要性についてお話したいと思います。

前提として、現在の法人税の税率についてお話します。中小企業の法人税率は、利益額のうち800万円以下の部分については15%、800万円を超える部分については23.2%が適用されています。

例えば、毎年800万円の利益を出す会社があるとします。その会社が倒産防止共済を限度額に達するまで毎年240万円納付したとすると、それによる節税額は120万円(800万円×15%)となります。限度額に達したのちに任意解約を行うと納付した掛金が全額返金されます。つまり利益額は事業による利益800万円と倒産防止共済の解約手当金により増加した利益800万円を合わせて1,600万円になります。

先ほど見たように利益額のうち800万円を超える部分に適用される法人税率は23.2%ですので、解約手当金にかかる法人税率は185.6万円(800万円×23.2%)となります。

つまり、120万円を節税したにも関わらず、解約のタイミングが悪かったために65.6万円の法人税が増加した形となるわけです。

これが倒産防止共済の出口戦略が重要である理由です。

ではいつ解約すれば良いのか?もっとも一般的な回答は役員の退職金と相殺するというものです。先程の例でいれば、倒産防止共済を解約するタイミングで役員に退職金を800万円支給すれば、倒産防止共済の解約手当金と相殺することで、適用される税率を15%に抑えることができます。

しかし、この場合退職するまで納付した掛金を自由に使えないというデメリットがあります。資金繰りに余裕があればそのまま寝かせておくという選択肢もありますが、むしろそのお金を今後の事業の発展のための投資に充てるという選択肢も考えられます。 この辺りについては、事業の今後の展開や役員の年齢、資金繰りを総合的に考慮して判断する必要があります。

終わりに

倒産防止共済は、節税策の選択肢としては第一候補に挙がるものです。まず金額の年間の経費額が240万円とインパクトがあること、事業年度がある程度進んだ時点であっても、手続きにより掛金を納付することができること、一定条件で解約により100%返金されることなどがその理由です。

しかし、解約時点によってはかえって損をする場合もあり、出口戦略が重要となります。現状では役員の退職金と相殺するという方法がありますが、退職まで掛金総額を寝かせることになり、資金繰りの問題が生じる可能性があります。

倒産防止共済は節税策としては有用ではありますが、その有用性にとらわれてしまうと事業に悪影響が出てくる可能性もあります。有用ゆえのリスクもある節税策なので実行の際には慎重な判断が必要になるかと思います。

今日のお話はこんな感じです。お読みいただきありがとうございました!